ディーセント・ワーク

三度の飯より映画が好き。三度の飯を食える人権が好き。

雑味ありすぎの珍作「検察側の罪人」ネタバレなし

kensatsugawa-movie.jp


【あらすじ】
東京地検のエリート検事・最上(キムタク)は、大学時代に知り合いの少女が殺害された事件を引きすりながら暮らしていた。ある日、担当することになった夫婦殺害事件の被疑者の中に、少女殺害事件の重要参考人だった人物・松倉を発見する。
冷静に対処しようとする最上だったが、既に時効となった少女殺害事件の犯行を楽し気に告白する松倉の姿を見て、どうしても罰するべきと確信していく。同じく夫婦殺害事件を担当する新米検事・沖野(ニノ)は、最上を尊敬しながらも、松倉ありきの捜査方針に疑問を抱き始める。
一方、最上の大学時代からの親友である代議士・丹野は収賄容疑をかけられ、身を隠していた。その裏には、政財界にはびこる極右の存在があった。

と、あらすじだけ読めば骨太の社会派ドラマに感じられる。少なくともキムタク主演と聞いて浮かぶイメージよりは踏み込んだ内容だろう。
ところが、これが映画の面白いところで、実際に見てみるとストーリーが頭に入ってこないほど雑味たっぷりの珍作だった。申し訳ないけど所々笑いをこらえるのに必死だったし、一か所は声を出して笑ってしまった。

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まず一番の雑味は、不必要に突飛なディテールの数々。
何度か出てくる外食シーンが超風変わりな料理ばかりでそっちの方が気になるし、意を決して尋ねた弁護士の事務所が倉庫みたいなガランとしたコンクリート打ちっぱなしだし、そこの一角に家具やSMグッズを置いて仕事してるし、弁護士がアロハシャツだし、弁護士の妻がリーゼントだし、キムタクが帰宅すると妻が二胡を弾いてるし、ある人の葬儀なんてもう何の宗教の何だよ!??? 笑わせようとしてんのか!!!
極めつけは本作唯一のラブシーン。コトを終え、わりと深刻な過去のエピソードを告白する場面なのに、48手のどれのどの段階!??って感じの不思議すぎる体位でずーっと話しているのでとにかく内容が入ってこない。ここだけは我慢できず笑ってしまった。真剣に見てた周りのお客さんごめんなさい。

もう一つは政治批判と戦争批判の要素。
丹野が語る「 政財界には巨大な極右グループがあり、日本を再び戦争へ導こうとしている」みたいな話は非常にタイムリーな社会風刺で、そういう要素を入れること自体は評価できる。ご丁寧にアパを思わせるホテルまで出てくるし。
ただ、これらは全部セリフでしか表現されない上、めっちゃ早口なので半分も聞き取れないし、常に丹野が一方的に話すのでリアリティを感じられない。というか、この人大丈夫かなって感じに思えてくる。
もう一つの戦争批判に至ってはもっと不自然で、なんかキムタクの祖父がインパール作戦に参加した人で? チンピラ松重豊の祖父もそこで一緒になった過去があるだかなんだかで?? とりあえずどういう設定かすらよくわかんないんだよ!
この二つがあまりにも本筋の事件と無関係だしストーリーから浮きまくってるので、気になって調べたら、やっぱね、これ、映画化するにあたって監督が追加した要素だそうです。まあ、でしょうね…。全然絡み合ってないもんね…。

もしかしたら、極右の暗躍もインパール作戦も冤罪捏造も、国家権力の暴走という意味で共通した問題だから繋げて描けると思ったのかも知れない。
いやでもさ、キムタクの冤罪捏造は、国家権力の暴走じゃないじゃん。
彼は検察官の立場を利用して司法に私刑をやらせようとしてるわけで、要するにビジランテ。冤罪捏造というガワは同じでも、検察・警察が組織ぐるみで冤罪を作り上げてしまうのとは全然別の話ですよ。
私刑を目指すキムタクが検察官の立場を利用し、法の原則を守ろうとするニノがそれ故に検察官の立場を脅かされるという逆転構造が面白いんじゃないの?
とにかく似ているようで実は根本的に違うものを無理やり繋ごうとしてるから、ラブホの前で見張り役をしてるヤクザたちが「憲法を改正して軍事力を持つか否か」を雑談で話すという珍シーンが生まれる始末。
いや…うん。この時代に反戦メッセージ、大切だとは思うけど…。珍作度が増す結果にしかなってないよね…。

あとは全体的に演出が大仰で、ニノがだんだん藤原竜也に見えてくると思ったら、最後の最後で藤原竜也お決まりのアレと全く同じことをしててここも笑ってしまった。とにかくカット割ってカメラ動かせば緊迫感が出るでしょ~みたいなカメラワークも感心しなかったし。
ただね、私、曲がった評価なのは分かった上で言うけど、この作品がこういう微笑ましい珍作で良かったなと思ってる。
だってこの作品の事件部分で語られることって、要するに「例え極悪人でも、無実なら無罪にすべきか?」ってことでしょ。そんなもん考えるまでもなく無罪に決まっとるわボケ!
これを、答えの出ない難しい問題ですよ~ってドヤ顔でやられたら、不快になってたと思う。まあ、監督はドヤ顔のつもりかも知れないけど、そう見せることに成功しなくて良かったというか。別に皮肉じゃなくてそう思う。だって私、お陰様でこの珍作映画、わりと好きだもん。