ディーセント・ワーク

三度の飯より映画が好き。三度の飯を食える人権が好き。

妊婦にとってこの世はホラー!「クワイエット・プレイス」感想

quietplace.jp


<あらすじ>
大きな音に反応して襲ってくる"なにか"によって荒廃した近未来。数少ない生き残りである一家は、物音を絶てないよう工夫を凝らしながら山奥で生き抜いていた。
しかし、妻エヴリンは出産を控えていて…。

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音に反応する敵から身を隠すためにじっと静かにしている、というワンアイディアだけで緊張感を保ったホラー映画。グロテスクなシーンはほとんど存在せず、全年齢対象になっているのもうなずける。
客席全体が息を殺して鑑賞することで、緊張感、声を出せないことのフラストレーション、声を出すことの開放感を存分に味わえる作品なので、間に合う方はぜひ劇場で鑑賞されることをお勧めする。ストーリーや細かい部分はゆるゆるな気もするけど、緊張感を持たせる演出はとにかく抜群に上手い。

ストーリー的に興味深いのは出産の扱いだと思う。妊娠・出産はホラーでそれなりに出てくるモチーフだけど、妊娠中に敵に襲われる、流産してしまう、身ごもった子がモンスターや悪魔、といった「出産の"失敗"」を恐怖の対象にすることが多い。こうしたモチーフは、無事出産できるか分からない不安、体内に別の命がいることの不可思議さといった妊婦の普遍的な恐怖を反映している。
ところがこの作品は、無事に出産してオギャーと産声を上げることが恐怖の対象になっていて、かなり変わった作りだと思う。しかし、これも虚構の恐怖ではない。
戦時下、敵から身を隠すために母親が赤ん坊を殺すよう命じられたという証言は沖縄戦などでも見られるし、現代において様々な事情で公衆トイレやネットカフェで出産せざるをえなかった女性たちも、声を殺して出産したことだろう。そんな、声を殺して出産育児に臨んだ女たちを思って、中盤のクライマックスは号泣しながら見てしまった。


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終盤の展開はいくらなんでも自己犠牲が過ぎてちょっと好きになれなかったが、全体としてはよくできたエンタテイメント作品であり、女性キャラクターも生き生きとしていて良い。
「ワンダー・ストラック」で強い存在感を残した、聴覚障害を持つ役者 ミリセント・シモンズは今回も大活躍。ちょっと万能すぎてリアリティの希薄な役に、きちんと実在感を持たせている。これから更に活躍してほしい役者さんナンバーワンだ。