ディーセント・ワーク

三度の飯より映画が好き。三度の飯を食える人権が好き。

虚と実、正義と悪、全部が僕を大人にする「パパはわるものチャンピオン」感想

papawaru.jp


<あらすじ>
9歳になる祥太は美容師のママとマッチョなパパとの3人暮らし。でも、なぜかパパは職業を教えてくれない。ある日、意を決して車に忍び込んだ祥太は、覆面悪役レスラー「ゴキブリマスク」として戦うパパ・大村孝志の姿を目撃してしまう。
「どうして悪いことをするの?」父の職業を受け入れられない祥太と、膝の故障によってエースレスラーからヒールに転身したことを未だに受け入れられない孝志。ふたりの葛藤が始まる。

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今日はまず一番に、深くお詫び申し上げなければならない。
なんでって私、この映画をめっちゃくちゃなめてたからです!!!

なにぃ~? パパがゴキブリで息子がバイ菌(をCMで演じてる子)で? 男の生き様がどーたらで? ケッ! これだから日本映画はダメなんだよ! ペッペッ! 
くらいの、ほんと、これくらいのテンションですよ、鑑賞前は。ところがTwitterのフォロワーさんにお勧めされまして。またまた御冗談を~(半笑い)と思いつつ、私もまじめな性格ですので、一応行きますかってことで映画館へ向かいました。

アバンタイトル前、プロレスラーの棚橋弘至演じる父・孝志が慌てて出かける準備をする場面で、もう「あれ…これイイかも」と感じさせるものがあります。
私はプロレスまったくの門外漢ですが、役者では出せない独特な魅力を冒頭からビンビンに感じる。ネクタイをうまく締められない棚橋弘至、慌てて走る棚橋弘至、急いでるのにおばあさんを助ける棚橋弘至。その所作と強烈な肉体性一つ一つがどうしようもなく魅力的で、この人を見ていたいと思わせる力がすごくある。
本作には新日本プロレスの現役レスラーが多数出演していて、その肉体的な説得力が作品全体を力強く支えています。いわゆるシロートさんを映画で使うのって難しいと思うのですが、演技が下手すぎて雑音になるような部分は全然なく、大変上手くいっていると思います。
プロレスシーンはどれも圧巻! 悪役の使う汚い手のあれこれも、実にリアリティがあって楽しませてくれます。

子どもたちの方は人物設定も演技もやや類型的で、私が大変苦手とするザ・子役な部分もありはするのだけど、ここで効いてくるのが本作のプロレス愛。
祥太は自分の父がエースレスラーのドラゴン・ジョージだと嘘をついてしまうのですが、するとクラスのみんなが「マジで!あの!?」みたいに湧きたつのです。いや、私は門外漢だけど、プロレスって今の日本でそういう位置にある…?(笑)
ヒロインに当たるクラスのマドンナ的な女の子がプロレス大好きで、将来の夢はドラゴン・ジョージのお嫁さんになること!というのも実際にいたらわりと変わった子だと思うけど、本作ではそんなツッコミは誰もしない。
みんなプロレス大好き!だってプロレスはすげえもん!!!!という清々しいまでの世界観がそこにはある。

それを象徴するのが、雑誌記者であり熱烈なプロレスファンのミチコ。プロレス愛が過ぎて職場でも浮いているらしい彼女は、祥太がゴキブリマスクの息子であることを偶然知り、プロレスの魅力とヒールの必要性、父・孝志がいかに偉大なレスラーであるかを熱く語ります。
この解説者的な役回りを女性に設定しているのがとても良いし、仲里依紗の演技も素晴らしい。後半、彼女の情熱がついにいろんな人を動かしていく様には、ジャンルは違えど映画大好きな私は共感せずにいられませんでした。プロレス大好きな男がプロレス大好きな観客を生み出し、プロレス大好きな観客がついに周囲の心を動かし始める! この手の話に私はめちゃくちゃ弱いです。
息子とは何度も会ってるのに「お父さんに会わせて」と言いもせず、ひたすらファンとしてリング上の孝志を見守るスタンスも誠実な描き方だと思いました。

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みんなにブーイングされる悪役もこの世には必要、悪に見える者が正義なこともあるというのは、今の社会で伝えるのがかなり難しいメッセージだと思う。だって現実は、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で悪役・ビフのモデルになったトランプが大統領になり、綺麗事より露悪の方が正義だとばかりに様々な人を排斥しているような社会なんだから。アメコミ映画界でダーク・ヒーローものが今一つはじけない大きな原因もこれだと思う。
しかし、この作品ではプロレス特有の虚と実、正義と悪の複雑な関係を十分に生かすことで、古くて新しいメッセージとして伝えることに成功している。
プロレスを通して祥太は、最初に感じていたより複雑な世界を理解し、それはとっても優しく元気の出る世界で、彼を少しだけ大人にしてくれるのだ。