ディーセント・ワーク

三度の飯より映画が好き。三度の飯を食える人権が好き。

そのワガママは、あなたがやっても"ワガママ"ですか?「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」感想

bananakayo.jp


<あらすじ>
筋ジストロフィーを抱える鹿野靖明(大泉洋)は、重度の障害にも拘らず病院や施設を拒否し、多くのボランティアに支えられながら札幌市の自宅で自立生活を送っていた。
ある日、ひょんなことからボランティアとして参加するハメになった美咲(高畑充希)は、我が強くマイペースな鹿野と時に激しく衝突しながらも、「生きることは互いに迷惑をかけあうこと」と語る鹿野の生き方に次第に感化されていく。
24時間365日、欠かさず介助を必要としながらも命がけで"わがまま"を貫こうとする鹿野と、彼を支える多くのボランティアの姿をコメディタッチで描く。

f:id:chiki_sasa:20181231203228j:plain


「ワンダー 君は太陽」の感想でも書いたけど、私は自分が先天的な心疾患を持っているため、いわゆる「感動ポルノ」的な作品には点が辛い方だと思う。こういう題材の作品を見るのはいつもすごく警戒してしまう。
でも実際に観た感想としては、よく出来てるいい映画だね!ということ。やや気になる点については後述するけど、全体としては非常によく取材して丁寧に描かれている良作だと思う。

こういった題材を扱う場合、駄作になる大きな原因の一つは、政治的・社会的なメッセージを取り除いてしまうこと。そうすると観客が主人公に好感を持つためには「純粋な人だから」のような人間性重視か、あるいは「かわいそうだから」と同情を誘うしかなくなる。そこに障害者の主体性は皆無だ。
本作も実際よりはそれなりにマイルド化されていると思うけど、講演シーンも交えるなどして、モデルである鹿野氏の障害者福祉に対する哲学をしっかり盛り込んでいる。
といって決して説明的ではなく、丁寧な日常描写を繰り返すことで、強気にふるまっている彼が実はどれだけ恐ろしい綱渡りをしているか、なぜ綱渡りするしかないのか、なぜ綱渡りしてでも彼は自由を求めるのか、観客に考えさせることに成功していると思う。

分かりやすいストーリーと軽快な演出でありながら、ディテールの積み重ねで彼の置かれている状況の過酷さを見事に描写いている。特に感心したのは、ボランティアに支えられる日常生活を繰り返し丁寧に描写している部分だ。
美咲が初めてボランティアに参加するシーケンスがまず素晴らしい。鹿野宅の壁のいたるところに、ボランティアのシフト表、日別に薬を収納してある投薬カレンダー、ボランティアへのありとあらゆる注意事項が貼られている。ベテランボランティアが洗濯のポイントまで細かく指導する。これらが一つ守られないだけで、下手したら彼は死んでしまうのだ。
そんなセリフは一つもないのに、彼のいのちが多くの人の善意や責任感といった、尊いが危ういものの上に成り立っていることが見事に表現されている。そして、人間一人の生命を維持することの、なんとハードで壮大なことか。
私は一時期、猫シェルターのシフト管理を任されていたから、もし誰も決まらなかったらどうしようという焦りを思い出してゾッとした。
ボランティア役のキャストも非常に実在感があり、ベテランボランティア・塚田を演じる宇野祥平に至っては、本当に鹿野ファミリーだった人の友情出演ではないかと思っていたほど。

f:id:chiki_sasa:20181231214948j:plain


物語が進むにつれ、劇中で「わがまま」と称される鹿野の望みの数々は、実は私たちが日常的に行っているただの生活に過ぎないことに観客たちは気づかされるだろう。
95年当時は今のようにコンビニで24時間バナナを買える状況ではなかったから、深夜にバナナ食べたい!は確かにちょっと無理のある望みかも知れない。でも、ハンバーガーショップの中から好きな店を選んで食事を買う、夜中に目が覚めて喉が渇いたから水を飲む、カラオケに行く、旅行に行く。自分でそれをかなえられる人たちなら、この欲求を「わがまま」と言われることなんてあり得ない。
結局のところ、この「わがまま」の頭には、「人様に迷惑をかけてまでやるなんて」とか「自分ではできないくせに」といった枕詞がつくのだ。そして鹿野の"命がけのワガママ"は、そうした価値観の元に不自由を強いている社会に対する抵抗でもある。

ややネタバレすると、後半で主人公は人工呼吸器を使用することになっていく。当初、かなり強く抵抗する様子が描かれるので、人工呼吸器=人間らしくない死んだような生活という偏見を強めてしまわないか心配したが、見事に杞憂に終わらせてくれた。
今年は人工呼吸器ユーザーが自立生活を送ることを題材にしたイギリス映画「ブレス しあわせの呼吸」も公開され、ようやく少しづつ価値観が変わりつつあるのかなと感じる。でもこれ、実際には60年代(ブレス)と90年代(バナナ)の話だからなぁ。いくらなんでも社会の認識が遅れすぎていやしないか。


この人なくして本作は成立しなかっただろうと思わせる大泉洋の芸達者ぶりは言うに及ばず、高畑充希のコメディエンヌぶりも見事だった。特に高畑充希の驚きと戸惑い演技のニュアンスの豊かさには脱帽するしかない。重いテーマを実はきちんと重いものとして描いているにも拘らず、誰にでも取っ付きやすい娯楽作品に仕上がっているのはこの2人の功績が大きいだろう。
ただ一つ残念なのは、これは本作に限ったことではないのだけど、男性障害者を登場させる場合、理想化されたステレオタイプな障害者像と異なる"人間らしさ"を描く手段としてセクハラが肯定的に描かれてしまうこと。冒頭のシーケンスがまさにそれで、正直言って出鼻をくじかれたところはある。
また、恋愛要素を入れるなら、大泉洋の相手はもう少し年齢を上げるか、恋愛要素自体に工夫が必要だったと思う。キャストの実年齢が20歳近く違ってはさすがにおじさんと子どもにしか見えず、どうしても違和感をぬぐえなかった。

とはいえ気になったのはその部分くらいで、全体的には大変好感を持ったし、今年最後に観る映画納めとして良い体験になった。
ぜひ多くの人の目に触れ、人工呼吸器サイコー!と叫ぶ鹿野氏の力強さを感じて欲しい。

動物映画の抱える倫理問題と「ファンタスティック・ビースト」の魔法動物たち(前半)

私はたいそうな動物好きでして。
地元の動物愛護団体に細々とながら協力してるし、個人で活動してる猫ボランティアさんにも細々とながら協力してるし、なにせ私自身、家で保護猫を9匹も飼っている。その上、最近はベジタリアンでもある。

なんて話をすると、「あ、じゃあ、この前のネコ映画見た? 〇〇が出てるやつ。ちょ~かわいいよね~♡ 癒される~♡」なんて言われたりする。
その度に、あ―いや…私、ソッチの動物好きじゃないんすよね…。と申し訳ないような肩身が狭いような気持ちになって、へへ…と愛想笑いするので精一杯。

だってさ~!!!!
映画の撮影でどれだけの動物が犠牲になって来たと思うんすか。

karapaia.com

ここに紹介されているのなんてほんのほんのほんの一部。いかに物語が動物愛に溢れる素晴らしいものであっても、実際の動物を撮影に使うのは常にこういうリスクを伴う訳です。しかも人間じゃなくて動物にリスクが伴う訳です。それを人間の都合で動物に押し付けてる訳です。
アメリカでは動物を撮影に使う際のルールが徐々に厳しくなってきているし、最近ではインド映画「ダンガル きっと、つよくなる」にも撮影中に動物を傷つけていないというテロップが入っていたりするくらい。それも、動物を出演させる限りこうしたリスクは常に付きまとうことになる。


一方、技術的進化によって動物映画の撮影現場が変わりつつあるのも事実。1995年に制作された「ベイブ」は当時最新のCGとアニマトロニクスなどの特殊効果を多用し、動物たちの姿を感情豊かに描いてみせた。
ちにみに、「ベイブ」一作目で実質的な主演を務めた農夫役のジェームズ・クロムウェルは、食肉になる運命から逃れようとする本作の物語に強い影響を受けている。出演をきっかけにヴィーガン(食事を始め動物利用を行わないライフスタイルを送る人)になり、動物利用に反対する活動家としても熱心。2013年にはウェンディーズの前で抗議活動を行って逮捕されているほどだ。

f:id:chiki_sasa:20181130160412j:plain

映像技術は日進月歩で進み、エモーションキャプチャを利用したリブート版「猿の惑星」シリーズ(2011~2017年にかけて公開)や、「少年以外、全部CG!」のキャッチコピーでおなじみ「ジャングルブック」実写版(2016年)など、生体を一切利用しない高クオリティの作品も増えてきている。
ただ、特殊効果のみで動物出演を補うにはそれなりの予算が必要なので、技術の進歩だけで問題が解決することは考えにくいだろう。


生体利用の問題がすべてクリアされても、動物映画にはもうひとつ大きな問題がある。それは「動物ちゃん可愛すぎ!」問題だ。
今年、東京にアライグマが現れ、大捕り物の末に捕獲されて殺処分されたことをご記憶の方も多いと思う。日本に存在しなかったアライグマが都会で捕まるまでに至った発端には、1977年に放送されたアニメ「あらいぐまラスカル」の影響が大きいという。アニメ人気にあやかってペットとしての需要が生まれ、輸入されるようになったのだ。
そもそも「あらいぐまラスカル」は、乳飲み子のラスカルをひろった主人公が手塩にかけて育て、最終的に野生動物は野生に返すべきと考えて自然に戻す物語。それでもこうした問題は起きてしまう。

f:id:chiki_sasa:20181130163425j:plain

もちろんこれは映画やフィクションに限らない問題ではあるけど、映画でも「ファインディング・ニモ」の影響でカクレクマノミの需要が急激に高まり、乱獲にまで至ったなどの過去がある。
ディズニーは続編となる「ファインディング・ドリー」の作中で海の魚は海へ返すべきとしつこいほどアナウンスしているが、それでもナンヨウハギのペット需要は高まり、「ドリーのようなナンヨウハギはペット向きではありません」とわざわざディズニー側がコメントを出している。


というわけで、ウルサイ観客である私は動物を愛すればこそ動物映画(動物が出演する映画)を楽しめないことが多い。あまりにも、多い。
繰り返しになるけど、いかに動物愛溢れる素晴らしい物語であっても、映画の内容や制作側の意図に関わらず、動物映画には必ず生体利用の問題とブームの問題がついて回るからだ。
では、私と同じかそれ以上に動物を愛し、「三度の飯より動物が好き」でおなじみニュート・スキャマンダー先生の映画はどうなのか。(そんなキャッチコピーはない)
長くなったので、「ファンタスティック・ビースト」については後半で書くことにしよう。

虚と実、正義と悪、全部が僕を大人にする「パパはわるものチャンピオン」感想

papawaru.jp


<あらすじ>
9歳になる祥太は美容師のママとマッチョなパパとの3人暮らし。でも、なぜかパパは職業を教えてくれない。ある日、意を決して車に忍び込んだ祥太は、覆面悪役レスラー「ゴキブリマスク」として戦うパパ・大村孝志の姿を目撃してしまう。
「どうして悪いことをするの?」父の職業を受け入れられない祥太と、膝の故障によってエースレスラーからヒールに転身したことを未だに受け入れられない孝志。ふたりの葛藤が始まる。

f:id:chiki_sasa:20181117192211j:plain


今日はまず一番に、深くお詫び申し上げなければならない。
なんでって私、この映画をめっちゃくちゃなめてたからです!!!

なにぃ~? パパがゴキブリで息子がバイ菌(をCMで演じてる子)で? 男の生き様がどーたらで? ケッ! これだから日本映画はダメなんだよ! ペッペッ! 
くらいの、ほんと、これくらいのテンションですよ、鑑賞前は。ところがTwitterのフォロワーさんにお勧めされまして。またまた御冗談を~(半笑い)と思いつつ、私もまじめな性格ですので、一応行きますかってことで映画館へ向かいました。

アバンタイトル前、プロレスラーの棚橋弘至演じる父・孝志が慌てて出かける準備をする場面で、もう「あれ…これイイかも」と感じさせるものがあります。
私はプロレスまったくの門外漢ですが、役者では出せない独特な魅力を冒頭からビンビンに感じる。ネクタイをうまく締められない棚橋弘至、慌てて走る棚橋弘至、急いでるのにおばあさんを助ける棚橋弘至。その所作と強烈な肉体性一つ一つがどうしようもなく魅力的で、この人を見ていたいと思わせる力がすごくある。
本作には新日本プロレスの現役レスラーが多数出演していて、その肉体的な説得力が作品全体を力強く支えています。いわゆるシロートさんを映画で使うのって難しいと思うのですが、演技が下手すぎて雑音になるような部分は全然なく、大変上手くいっていると思います。
プロレスシーンはどれも圧巻! 悪役の使う汚い手のあれこれも、実にリアリティがあって楽しませてくれます。

子どもたちの方は人物設定も演技もやや類型的で、私が大変苦手とするザ・子役な部分もありはするのだけど、ここで効いてくるのが本作のプロレス愛。
祥太は自分の父がエースレスラーのドラゴン・ジョージだと嘘をついてしまうのですが、するとクラスのみんなが「マジで!あの!?」みたいに湧きたつのです。いや、私は門外漢だけど、プロレスって今の日本でそういう位置にある…?(笑)
ヒロインに当たるクラスのマドンナ的な女の子がプロレス大好きで、将来の夢はドラゴン・ジョージのお嫁さんになること!というのも実際にいたらわりと変わった子だと思うけど、本作ではそんなツッコミは誰もしない。
みんなプロレス大好き!だってプロレスはすげえもん!!!!という清々しいまでの世界観がそこにはある。

それを象徴するのが、雑誌記者であり熱烈なプロレスファンのミチコ。プロレス愛が過ぎて職場でも浮いているらしい彼女は、祥太がゴキブリマスクの息子であることを偶然知り、プロレスの魅力とヒールの必要性、父・孝志がいかに偉大なレスラーであるかを熱く語ります。
この解説者的な役回りを女性に設定しているのがとても良いし、仲里依紗の演技も素晴らしい。後半、彼女の情熱がついにいろんな人を動かしていく様には、ジャンルは違えど映画大好きな私は共感せずにいられませんでした。プロレス大好きな男がプロレス大好きな観客を生み出し、プロレス大好きな観客がついに周囲の心を動かし始める! この手の話に私はめちゃくちゃ弱いです。
息子とは何度も会ってるのに「お父さんに会わせて」と言いもせず、ひたすらファンとしてリング上の孝志を見守るスタンスも誠実な描き方だと思いました。

f:id:chiki_sasa:20181117201349j:plain


みんなにブーイングされる悪役もこの世には必要、悪に見える者が正義なこともあるというのは、今の社会で伝えるのがかなり難しいメッセージだと思う。だって現実は、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で悪役・ビフのモデルになったトランプが大統領になり、綺麗事より露悪の方が正義だとばかりに様々な人を排斥しているような社会なんだから。アメコミ映画界でダーク・ヒーローものが今一つはじけない大きな原因もこれだと思う。
しかし、この作品ではプロレス特有の虚と実、正義と悪の複雑な関係を十分に生かすことで、古くて新しいメッセージとして伝えることに成功している。
プロレスを通して祥太は、最初に感じていたより複雑な世界を理解し、それはとっても優しく元気の出る世界で、彼を少しだけ大人にしてくれるのだ。



生きろ、そなたは美しい ! 「愛しのアイリーン」感想

irene-movie.jp

<あらすじ>
執拗に結婚を催促する母と認知症の父を抱え、42歳になっても山奥の実家で暮らす岩男。口下手で内気な性格が災いし、ようやく訪れた恋愛のチャンスも逃してしまう。
自暴自棄になった岩男は大枚をはたいてフィリピンのお見合いツアーに参加。ほとんど会話もしないままアイリーンを相手と決め、日本へ連れかえる。ところが帰国してみると父が亡くなっており、実家は葬儀の真っ最中。嫁の選択に命を懸けてきた母・ツルは激昂し、心までは売らないと決めているアイリーンは性交渉を拒み、波乱の結婚生活が始まる。

f:id:chiki_sasa:20181112144527j:plain


すごく、惜しいな~~~~~と思う作品だった。
扱っているテーマは人身売買に近い国際結婚、外国人差別、農村部の過疎化と閉鎖性、日本とフィリピンの歴史的な背景など、今の邦画で扱うには勇気のいるものばかり。エロとバイオレンスも容赦なく描かれており、作り手の覚悟は疑いようもない。
しかし、なにせ原作漫画が10年以上前に連載されたもの、かつ非常にセンシティブな題材だけに、今見るとどうかと思う展開も多かった。
まずもって、ろくに会話も出来ないし時々すごく暴力的な男…だけど、それ故に真実の愛のようなものが生まれる、という枠組み自体がもうすごく90年代っぽい。私はなるべく作品の事前知識を入れずに観に行く派なので原作の発表時期を知らなかったけど、なんかすごい90年代っぽい映画だな~と感じた。(実際の連載時期は95~96年)

女性キャラクターの人物像自体は今見てもすごくフレッシュだ。例えばアイリーンは母語タガログ語と片言の日本語しか話せないため、序盤では無鉄砲で無邪気なだけの少女に思える。ところがあるシーンから彼女のタガログ語に字幕がつくと、実はすごくしっかりした、年齢の割にはむしろ大人びた女性であることが分かる。この辺の見せ方はよく考えられている。全体的に言語によるディスコミュニケーションがかなり上手く使われている作品だと思う。
加えて、アイリーンを演じたナッツ・シトイの魅力がとにかく驚異的で、ちょっとどうかと思うほどかわいい。商店街で目に入った物の名前を覚えたての日本語で言いながら歩くシーンなんて、ナッツ・シトイの美しさだけで世界が輝いて見える。しかもこの場面、監督の指示ではなく「全部自然に出てきたシーン」*1だという。
半ばやけくそでアイリーンを選び、セックスしか頭になかった岩男が、次第に心から惚れてしまうのも納得である。
その他、あまりにも差別的で暴力的な岩男の母・ツル、アイリーンに助言してくれるフィリピーナのマリーン、岩男の失恋相手である同僚の吉岡、いずれもステレオタイプには収まり切らない人間として描かれている。

ところが、マジで誠に惜しいことに、ある決定的な事件が起こる中盤以降は非常に残念な展開になって行く。
ようやくアイリーンとの関係を築き始めた岩男は、中盤の最後に取り返しのつかない罪を犯してしまう。それによる恐怖と罪悪感を紛らわせようと手当たり次第に性衝動をぶつけ、アイリーンや吉岡、かつてのお見合い相手にまで次々と性暴力を振るう。
この展開自体は、ちょっと古いと思うけどまだ許せる。問題は、女性たちがわりと積極的にそれを受け入れ、反発していたアイリーンまでも最終的には岩男を完全に受け入れて愛してしまうことだ。
この辺はさすがに、いくらなんでも、原作から変えるべきだったんじゃないだろうか。あまりにも岩男が甘やかされっぱなしな一方で、アイリーンはどんどん重荷を背負い、最後には背負いきれないであろう重荷まで自ら背負おうとする。この後半で一気にドン引きしてしまった。

アイリーンは二十歳にも満たない少女だ。岩男がやったことの責任なんて本人に取らせ、重荷なんて全部かなぐり捨てて、さっさと逃げ出して欲しかった。

運命の相手は自分で選べ! 「ヴェノム」感想(ややネタバレ)

www.venom-movie.jp

<あらすじ>
TV局で活躍する熱血記者エディ(トム・ハーディ)は、大企業「ライフ財団」が極秘裏にホームレスを人体実験に使用していると知り、取材を試みる。しかし強引な手法が災いして職も恋人も失ってしまう。
やさぐれた生活を送るエディの元に、「ライフ財団」の研究者が内部告発に訪れる。彼女の手引きで研究室への侵入に成功したものの、研究対象である地球外生命体・シンビオートに接触してしまい、ヴェノムと名乗るシンビオートに寄生されてしまうエディ。
明らかな身体能力の変化、始終聞こえるヴェノムの声に戸惑うエディだったが、次第に"ふたり"の間には信頼関係が生まれていき‥‥。


f:id:chiki_sasa:20181107202203j:plain

予告や宣伝から受けるダークな印象とはかなり違い、特に中盤以降はギャグ満載のコメディと言ってよいくらい明るい映画だった。
ストーリーも設定もかなりゆるく、もっと言えば雑なところもたくさんあり、いわゆる「よくできた映画」でないことは明らか‥‥なんだけど、多くの観客が魅了されているように、とにかくヴェノムとエディの組み合わせがあまりにもキュート。映画としての出来はよくないのに愛しい作品になった「ザ・プレデター」と似た魅力だと思う。
私はそもそも人間以外のイケメンキャラクターにすごく弱いので、個人的にはがっしりハート鷲掴みされる結果になった。そりゃTumblrでヴェノム&エディが一番件数の多いカップルになりますよ、これは。

主人公エディは、暴走しちゃう面もありつつ、弱きを助け強きをくじく正義感を持つ男。彼はサンフランシスコの街に生きる貧しい黒人労働者や、ホームレスの女性、中国系移民の商店主と仲良くしていて、この辺の描写だけでも結構好きだった。
人間同士の恋愛パートは「アントマン」シリーズに近い大人さがあって、エディの元カノであるアンの今カレはすごく優秀で親切だし、アンはエディへの恋愛感情が失せても最低限の人間的な愛情は持ってるし、といって恋愛関係が復活したりはしない。
そして何といっても、寄生生物ヴェノムとの丁丁発止なやり取りがとにかく楽しい。エディは決してひ弱なタイプではないのに、ヴェノムの強引さは比較にならず(なにせ勝手に寄生しちゃうくらいだし)、トム・ハーディが巨大な粘菌みたいな生物に振り回される様はどうしたってほんわかした気持ちにさせられてしまう。いわゆる見せ場のアクションシーン以外がとても魅力的な作品だと思う。

面白いのは、強制的に寄生させようと人間がシンビオートに与えた宿主(ホームレスたち)にはうまく寄生できず殺してしまうのに、シンビオートが脱走して自主的に寄生した場合は非常にスムーズに寄生できる点。
作中で理由は全く説明されないので、原作にある設定なのか、深く考えず作ったら偶然そういう展開になったのかわからないけど、結果として寄生する側の意思によって成否が変わる描き方になっている。
生きた動物を食べないと飢えて宿主の内臓を食べ始めてしまう弱点も、脱走している個体はうまいこと生きたウナギやロブスターや人間を摂取して乗り越え、実験室で人間の食べ物(ヴェノムいわく"死体")しか与えられない個体は宿主を死なせてしまう。この辺も、どこまで意図的か分からないけど生体実験の描き方として印象的だった。
この映画はやはりエディとヴェノムのロマコメで、自分の生き方もパートナーも、しっかり自分で決めなきゃ死んじゃうぞ!というお話かも知れない。

違う星(くに)に産まれたのに結ばれちゃったミラクルロマンスカップルのヴェノムとエディ、次回作は是非ふたりのほんわか日常シーンに1時間くらい割いてもらいたいし、それが無理ならふたりのほんわか日常エピソードの薄い本が1億冊くらい読みたいと思う今日この頃だ。


妊婦にとってこの世はホラー!「クワイエット・プレイス」感想

quietplace.jp


<あらすじ>
大きな音に反応して襲ってくる"なにか"によって荒廃した近未来。数少ない生き残りである一家は、物音を絶てないよう工夫を凝らしながら山奥で生き抜いていた。
しかし、妻エヴリンは出産を控えていて…。

f:id:chiki_sasa:20181028143549p:plain

音に反応する敵から身を隠すためにじっと静かにしている、というワンアイディアだけで緊張感を保ったホラー映画。グロテスクなシーンはほとんど存在せず、全年齢対象になっているのもうなずける。
客席全体が息を殺して鑑賞することで、緊張感、声を出せないことのフラストレーション、声を出すことの開放感を存分に味わえる作品なので、間に合う方はぜひ劇場で鑑賞されることをお勧めする。ストーリーや細かい部分はゆるゆるな気もするけど、緊張感を持たせる演出はとにかく抜群に上手い。

ストーリー的に興味深いのは出産の扱いだと思う。妊娠・出産はホラーでそれなりに出てくるモチーフだけど、妊娠中に敵に襲われる、流産してしまう、身ごもった子がモンスターや悪魔、といった「出産の"失敗"」を恐怖の対象にすることが多い。こうしたモチーフは、無事出産できるか分からない不安、体内に別の命がいることの不可思議さといった妊婦の普遍的な恐怖を反映している。
ところがこの作品は、無事に出産してオギャーと産声を上げることが恐怖の対象になっていて、かなり変わった作りだと思う。しかし、これも虚構の恐怖ではない。
戦時下、敵から身を隠すために母親が赤ん坊を殺すよう命じられたという証言は沖縄戦などでも見られるし、現代において様々な事情で公衆トイレやネットカフェで出産せざるをえなかった女性たちも、声を殺して出産したことだろう。そんな、声を殺して出産育児に臨んだ女たちを思って、中盤のクライマックスは号泣しながら見てしまった。


f:id:chiki_sasa:20181028144152j:plain
終盤の展開はいくらなんでも自己犠牲が過ぎてちょっと好きになれなかったが、全体としてはよくできたエンタテイメント作品であり、女性キャラクターも生き生きとしていて良い。
「ワンダー・ストラック」で強い存在感を残した、聴覚障害を持つ役者 ミリセント・シモンズは今回も大活躍。ちょっと万能すぎてリアリティの希薄な役に、きちんと実在感を持たせている。これから更に活躍してほしい役者さんナンバーワンだ。



備忘録「菊とギロチン」「ザ・プレデター」「焼肉ドラゴン」「スカイスクレイパー」感想

前回に引き続き、溜まってるのでどんどん行きましょう。


菊とギロチン

f:id:chiki_sasa:20181021120517j:plain

大変な傑作だったので、この作品についてはまた改めてしっかり感想を書きたい。とはいえ決して見やすい映画ではなく、おかしなところは沢山あって、思想的にも好き嫌いが分かれることは確実。だって、アナキストの映画が万人に好かれる端正なものでどうすんだよ!?
革命運動においても活動家の大半はナチュラルにミソジニストであり、「みんな平等」の"みんな"に女が含まれていないことがきちんと描かれている。だからこそ女たちは、人権ではなく女性の権利を訴える必要があったのだ。
「左翼」を主人公とした大半の映画はその点をオミットするか、「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」のように女性差別的な視点のまま作品にしていて罵声の一つも浴びせたくなってしまうので、「左翼映画」というジャンルがあるなら、そのエポックになって欲しいと感じる作品だった。


ザ・プレデター

f:id:chiki_sasa:20181021121810j:plain

前評判の通りめっちゃBLでめっちゃBLだった。なにこれ。
お話は穴だらけだし演出もそこまで上手くないグズグズな映画ではあるんだけど、なんとも抵抗し難いチャーミングさに溢れている。おかげで、こういうジャンルの映画なのに誰も死なないでくれと思うし、見終わるとどこか心がホッコリした気持ちになる。※個人の感想です
SFホラーというより男たちのチーム映画だと思うけど、その割には女性キャラが都合のいい役回りになっていなくて、そこも好感が持てた。面白いとかよく出来てるってより、好感が持てるんだよね、全体的に。子どもの扱いはさすがにどうかと思ったけど。あとウーピー・ゴールドバーグは怒っていい。


焼肉ドラゴン

f:id:chiki_sasa:20181021123808p:plain

1970年代初頭の焼き肉屋を舞台に、かつてあった在日朝鮮人・韓国人コミュニティを描いた作品。今この時代にメジャー作品として映画化できたことをまず評価したい。
ただ、小さな人々の営みを通して社会情勢を見せる作品に必須である実在感が希薄で、あまり乗れなかった。元になった舞台から映画化するにあたって上手く変換できていない部分が多いと感じる。
あの町並み自体が非常にセット臭く感じさせるし、冒頭のナレーションで「いつもうるさくて…」と言ってるわりに静かなので、あまりコミュニティって感じがしないんだよな。モブが圧倒的に足りない。
あと、大泉洋真木よう子の生足にすがりつくシーンで足をはっきり見せなかったりと、ディテールをちゃんと見せない部分が所々あり、これも実在感を削いでいると思った。あそこは井上真央の豪快なキスシーンよりもっとずっと重い意味があるんだから、ちゃんと見せないとダメでしょう。
ただキャストは全体的に良くて、特にキム・サンホは表情ひとつ、セリフひとつで本当にいろんなものを伝える奥行きのある演技をするので心底脱帽した。戦争と侵略の歴史部分を日本人キャストではなく彼一人に委ねたのは作りとしても誠実だと思う。


スカイスクレイパー

f:id:chiki_sasa:20181021124408j:plain

ほんと申し訳ないんだけど、今一つな体調で見に行ったら始まって10分くらいで寝てしまって、起きたらもうビルが大炎上してた。途中20分くらい熟睡してたかな…。ごめんよ。
でも、おかげで説明部分を飛ばしていきなり見せ場に行けたので結構楽しかった。
予想を超えることは特に起こらないんだけど、観客が期待していて見たいものを見せてくれる水準には達している。妻が軍医という設定なのでやたらに強く、家族の絆は筋肉で守る!って感じも微笑ましかった。
終盤の展開がやたらダクトテープ推しで、ロック様が「ダクトテープがあれば何でもできる!」と言ったりするんだけど、映画はダクトテープで何でも解決するというのは映画ファンの世界的な共通認識(ネタ)なのかね。